陰陽五行理論は古代インド・中国の宗教・哲学から出発し、それが農業や医学にも応用されるようになった自然科学です。この考え方は毎日の鍼灸臨床の中で生きているわけですが、皆様方の物の見方・考え方に何か役立つ物があるのではないかと思い、入門編のごく一部をコンパクトにまとめてみました。

1-1.陰陽理論

陰陽理論は人間の住む自然界がどうして出来たかという所から始まります。[太極]といって何が何だか判らない状態を、天地の創造主が形のあるものと形のないものとに分けました。形が無くて作用だけがあるものを[陽]の代表とし、これが[空]です。形があって性質がおとなしいものを[陰]の代表とし、これが[大地]です。穏やかでおとなしい地の性質と、騒がしくて動きやすい天の性質が、陰陽関係においてどういう具合に万諸・万物に作用するかといいますと、大地はものを生かし伸ばす作用をし、空はものを発生させる作用があります。発生作用とは、大地のタネに空の陽気である暖かさ・騒がしさを与えるという意味です。この発生作用が地上に対して強すぎると、物を殺し合う作用になります。具体的には真夏の暑い時、雨が降らないで天の熱気ばかりが強いと草木が枯れます。逆に陰が強すぎると物を隠す作用になります。秋の終わりから冬に掛けての寒さが厳し過ぎると草木は枯れて形を無くすものが多くなるのがその現れです。このように陰と陽の関係は相互に対立しているだけではなく、相互依存・相互制約の関わりの中で統一され、健全な自然環境が成り立っています。
ここでは植物の成長過程と陰陽の関係を取り上げましたが、広い意味での生物は全て天地陰陽の影響を受けていますので、このような方向で観察する必要があります。また、この世に存在する全ての物質や諸現象も陰と陽に分けられますので主な具体例を以下に紹介します。

陰陽区分表

当然、人間の生活や仕事も陰陽に順応した環境を整えなければ成らないのですが、なかなか理想どうりにはいきません。例えば、深夜は陰の時間帯ですので深い眠りの中で心身の疲労を取り除くべきですが、夜間勤務の避けられない職種は沢山あります。この陰陽理論に逆らった生活や職業を長期に渡って続けますと、色々な病気にかかりやすいので何らかの防衛策を考えて頂きたいし、そのためのヒントは提供できると思います。
もし今、患っている病気の原因を考えて見た時に前述のような陰陽の乱れがあったり、その自覚症状が陰陽の不調和を現すようなものであれば、東洋医学鍼灸治療によって解決する可能性が高いので是非にみせて下さい。

1-2.五行理論

仏教に詳しい方はご存じと思いますが、お釈迦様の時代に地球を構成しているのは、[地・水・火・風・空]の五つの要素から成り立つという考え方があって、後に森羅万象を五つの集合の和として象徴的とらえ方をしたのが五行説とされています。
具体的には、[木・火・土・金・水]の五つの要素を機軸に分類しております。この五つの要素の間には相生・相剋の関係があります。まず、相生関係ですが[木生火][火生土][土生金][金生水][水生木]の循環です。相剋関係は[木剋土][土剋水][水剋火][火剋金][金剋木]のようにお互いを制圧する関係です。この考え方は、主に鍼灸の治療法則の中で採用しておりますので詳しい説明は省略しますが、下に五行色体表の中から病状の捉え方や養生法などに役立つと思われる項目を書き出しましたのでご覧下さい。

五行の色体表
五行
五季 土用
五能
五悪 湿
五方 中央 西
五刻
五臓
五腑 小腸 大腸 膀胱
五根
五主 血脈 肌肉 皮膚
五支
五志 憂思 恐驚
五精 意智
(はく)
精志
五情
五畜
五役
五色
五香 (油臭い)
(生臭い)
五声
(なく)

(うめく)
五味
(しおからい)
五変 うわ言 きつ逆
(しゃっくり)

(ふるえ)
五液
(よだれ)
鼻汁
五穀
(きび)
五菜 (らっきょう)
(せり)
豆の葉
五果
(なつめ)

2.東洋医学の特徴